「「あ。」」


最初に気がついたのは田島と水谷の2人だった。
よりにもよってなんでこの二人の目に留まってしまったのかという時点で不幸は始まる。




落し物





そのゴツめの黒い携帯には見覚えがあった。
…つーかそのストラップとかもな、覚えがありすぎて嫌すぎる。
本人が普段絶対に付けないようなキャラもののストラップを付けてたら多少の興味も湧く訳で…
「めずらしいな」って言ってみたらその後延々と休日デートの詳細を語られる羽目になるとは思ってなかった。

…ああ、うん。全っ然聞きたくなかったわ。

こんな時同じクラスという事実を多少なりとも恨みたくなるのは仕方ないと思う
休み時間ごとにオレの席まで移動してきて話されるとか辛い。逃げ場ねぇ…!
空気を察した水谷はクラスの外に逃げてったし…オレの自業自得とはいえなにこのプチ拷問
いかにして部屋に通してキスに持っていくかという所まできて全力で話をやめさせた。
主に栄口のプライバシーと……オレの精神衛生上の理由で。

更にどのくらい経った頃かストラップがもう一つ増えた。
たまたま着替えの最中に気がついてちらりと見ただけだったんだけど気づかれたのが運のつき
再び捕まって惚気話を聞かされた………ホントもうマジで勘弁して下さい。

しかも何が恥ずかしいってこいつら揃いで買ったそれがイニシャル付いてるやつでさ
阿部が『Y』栄口が『A』なんだよ。
……お前らTAにYSだろ。
逆ですよー。

しかもなんで名前と苗字なんだよっていらん事聞いたら
オレは名前にしようって言ったのに恥ずかしいから「あべ」のAでいい。
あべって呼び方好きなんだけどダメかな?とか上目遣いの赤い顔で言われてダメと言えるかアレは反則
そう話す阿部に自然顔も引きつるし背筋に悪寒が走る

お前今すぐそのにやけきった顔鏡で確認して来いキモ怖いわー!!


………といういらない予備知識まであることから間違いなくコレは阿部の携帯だ。

そして断言する。


絶っ対に中身なんか見ないほうがいい。

オレは仲間内での変態性なんかを垣間見る趣味はねーんだよ!!


携帯っていわば個人情報の塊だろ
まして相手はあの阿部。
どんな爆弾抱えてるのかなんて想像もしたくない。

たまに練習の後携帯を確認した栄口が真っ赤な顔で阿部を叱ってる事がある事からメールはおそらくブラックだ。
送信履歴なんて怖くて見れたモンじゃない。
もっと言えば、栄口がどんな風に登録されてんのかとか変な呼びかたしてたらどうしようとか…怖ぇえ。

そんなオレの胃の痛くなるような悩みなんてどこ吹く風。
暢気でマイペースな2人はあっさりと携帯を開いて物色しはじめた…って、オイ!


「お前ら人の携帯を勝手に…」


慌てて取り返そうと手を伸ばしてはみたものの田島にするりと逃げられた
完全に面白がってる田島が「別にいーじゃん」とオレの腕をかわしながら言う


「落としてくのがワリィし、見たって言わなきゃいいんだろ」


それに「そうそう」と水谷が乗る


「花井は気になんないの?阿部の普段の所業」


栄口に迷惑掛けてないかとかそうゆうの。と水谷にしてはまともな事を言う
それに少しだけ反応してしまった自分が思い返せば恨めしい
後悔先に立たずとはこの事だ。

どうした?と寄ってきた巣山や3組連中それに泉が揃ったところで再び田島が中身の検証を始めた。
…ちなみに運良く、というか運悪く阿部・三橋はモモカンに呼び出されていて
更に栄口はシガポに雑用を頼まれてるとかで席を外していた…本当にタイミングが良いのか悪いのか。


「うわ…寝る前に何回もメールうぜぇ!一回で終わんねーなら電話しろよ」

「即返信とか待ち構えてるよね絶対」

「…お?しかも結局電話してるぜ履歴見っけ」

「「阿部ウッゼー!!」」


……もうアレだよな、お前ら絶対栄口の為とかじゃなくて単純に阿部で遊んでるよな。
こうもネタを提供するアイツもどうかと思うけど。

いい加減そろそろ止めようかと思ったところで何かに気づいた様子の水谷


「ねー、これ…この栄口すっごい怒ってるけど何?この前のメールで阿部なに送ったの?」


見ればそれまでの直視を避けたい内容の文面と打って変わって


『あべのばか!ふざけんな!!ホントに駄目!!すぐに消せ馬鹿!!!』


軽い口喧嘩のようなのならオレらの前でも良くやってるけど(まぁ大半は惚気半分だが)ここまで乱暴な口調の栄口は見たことがない
そういや少し前に一度朝から誤り倒している阿部ってのを見かけたな…なんて思ってるうちに田島が阿部のメールを見つけた


『これ待受けにしていいか?』


そこに添付されていたのは安らかに眠る栄口の姿
それは別に変な顔してるわけでもなく本当に普通に眠ってる栄口の顔
しいて言えばほんのり赤い顔で幸せそうに眠ってんなーってくらいでそこまで怒るもんじゃないと思う
……まぁ、事情を知らない奴が見た場合、男の携帯に男の寝顔が映ってりゃ多少変には思うかもしんねーけど。

そんなこと考えてたオレは着眼点が違った田島と水谷の行動の早さについていけなかった
ついでに後で聞いたら泉と巣山もそこで気づいてはいたらしい…ただ2人と違ったのは真相を知りたくなかったんだと。
…その意見には大いに賛成したいと思う。


「田島ピクチャでカメラ」

「…ちょっと待て入れねぇ」

「ロックかけてんの?」

「ますますアヤシーな」

「たんじょーび?」

「0608…違う」

「1211は?」

「…違うな」

「えーじゃあなんだろ?みんな心当たりない?」


2人だけでどんどん話を進めてった水谷と田島がそこでようやく顔を上げた
つかなにお前らのその無駄に高い行動力と情報能力
問いかけられたこっち側はどうなんだとお互い顔を見合わせるのみ
そこで恐る恐る声をあげたのは西広だった


「…0204とかは?」

「背番号か…お!西広ビンゴ!!」

「野球バカの考えそうなことだったな」


呆れたような泉が軽くため息
西広も本当に開くとは思ってなかったようで俯いてごめんと一言
…誰に対しての謝罪かはわからなかったが、おそらくそれはオレ等と栄口に向けての言葉だったんだろうと思う


「って…マジで出てきやがった阿部の野郎…」


はじめに呻く様な声をあげたのは田島・水谷と共に覗き込んだ泉
これって絶対マズイよなぁとか思いつつも好奇心には勝てなくてなんだと覗いてしまったオレと巣山
ちなみに沖と西広の2人には水谷が何事か耳打ち
途端にうわぁと沖が真っ赤になって西広は力なく笑ってる

ひょいっと覗いたそこにはさっきのメールに添付してあった画像とさほど変わらない画像が並んでいた
微妙に明るさとか表情に違いはあるものの、どれも寝てる栄口をわりと近い距離から撮ったもの
日付を見れば最近とった物はほとんどそんな感じらしかった
けど田島がキーを押していけば出てくるわ出てくるわ…
古い方にいくとにこやかに笑う姿とか拗ねてる顔とか他の画像もかなり出てきた
…あいつ、携帯の容量すべて栄口で埋め尽くす気か。
それはそれで本望だとか言い出しそうだよな…。
なにか諦めたっていうか、もはや悟りを開けそうな勢いでため息をついたら横の巣山と目が合った


「…花井、事の重大さに気づいてないな」


真顔で肩をポンと叩かれた
…は?重大事項?


「なにが?」


意味がわからず問い返したら田島に「よおっく見てみ」と携帯を渡されて
並んで覗き込んだ泉に疑問に思った方がいいという3つの事柄を説明された。曰く

・場所はどこなのか

・栄口はなんで寝てるのか

・寝姿に注意

場所…これ学校じゃないよな?ベッドみたいだけど保健室でこんな柄の布団見たことねーし
何で寝てるのか…眠いからだろ?
寝姿って…普通に薄手の掛け布団被って寝て……………

!!!!!!!


「……気がつきましたか花井サン」

「ちょ、っと待て。オイ。あれ?え?えぇぇぇぇぇぇ??」


なんで服着てないんだ栄口ーーー!!!
イヤ、見えないだけで下ははいてるよな。うん。そうに違いない
どっちかの家に泊まって、で、暑くて上は脱いで就寝した。…これであってるよな!栄口!!
信じてる。信じてるからなぁぁぁぁぁ!!!


「…ダメだ。花井は今遠い世界にいってるからお前らさっさとその危険物持ち主の荷物に突っ込んで来い」

「オレらはなぁんにも見なかったし知らない。…そういうことでいいな?」

「「はぁい」」


素直に返事をした田島と水谷
もちろん言うつもりなんて無いと赤くなる3組の2人
何かを諦めてる様子の巣山と泉
その6人のように記憶からそっと避けておくことができなかったオレ


「お前なに栄口見て赤くなってんだよ?」


表情はにこやかなのにどす黒いオーラを背負った阿部に問い詰められて乾いた笑いしか出てこなかった

元はといえばお前の携帯が…。

言いかけた言葉は阿部の背後に立って心配そうに見てる栄口とその後ろに立って両手で×をしている田島水谷コンビ
更に無言で首を振る泉と巣山を見れば言葉は続かず沈黙。


つくづく、他人の携帯なんか見るモンじゃねーと思い知った一日


お前らがお互いに好きでくっついてんのも多少の惚気も我慢する
…だから、わざとらしくオレの前で見せ付けるようにイチャつくのは勘弁してくれ!!


事の真相を知らない阿部の勘違いはしばらく続いて、その間消耗しきったオレの慰めになったのは無邪気なアイちゃんだけだった。

2010.03.22

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